定年を前に見つけた、30年の経験が輝く新たな価値

「同じことをやるところは、職安に行ってもない。もう悠々自適で終わるんだ」

 入社当時、定年を迎える先輩方が口にしていたこの言葉が、今も三好達朗さんの記憶に残っています。株式会社ニコンで30年以上、レンズ加工の生産現場を歩んできた三好さん。65歳での退職を見据えたとき、先輩たちと同じ道を歩むのか、それとも――。

「今持っているスキルをどう活用できるのか」、その答えを探して越境インターンに参加された三好さんが、 アウェイの環境で出会ったのは、「30年前の自分」がワクワクしていた感覚と、当たり前すぎて気づいていなかった自分の強みでした。


「もう同じ仕事はない」?

定年を迎えた先で、自分はどんな形で働いていくのだろうか。
特に技術系の仕事に長く携わってきた三好さんにとって、その問いはとても現実的でした。

レンズ加工という特殊な技術の経験。ニコンのルールに沿った仕事。
それは、会社の外では直接活かせそうにない経験でもありました。

「同じことをやろうとしても、場所がないんですよね」

実際、定年後にこれまでとは異なる分野の仕事を選んだ先輩たちもいたといいます。
技術系の経験は本当に活かせないのだろうか。
そんな思いから、三好さんは定年後を見据えた社内研修にも積極的に参加してきました。

ただ、複数人でのグループ型研修では、一人ひとりの手応えが薄く感じられることもありました。
「短期なので、成果の実感があまりないまま終わってしまう」
そんな感覚も、正直あったそうです。


「行ってみるか」と思えた、小さな選択

「結局、自分はどこまでできたのか。社内では色々な業務に関わってきたけれども、一歩外に出たときに通用するのか。手応えがほしかったんです」

そんな中で知ったのが、今回参加した越境インターンシップでした。
企業と一対一で向き合う形式だからこそ、自分の力量を測れるのではないか。
そう考えた三好さんは、不安を感じながらも参加を決意します。

「ずっと一つの会社にいたので、半人前の状態で社会に出るような感覚でした。
面談で『あなたは嫌です』と言われたらどうしよう、という不安もありました。
でも、65歳で外に出るときのために、今やっておかないと。ある意味、背水の陣でしたね」

こうして、少し身構えながらインターンが始まりました。


30年前の自分が、今の現場で立ち上がった瞬間

三好さんのインターン先は、新潟県燕市のES Bridge。
地域の中小企業を支援するコンサルタントの大山俊一郎さんとともに、製造業の現場改善に取り組みました。

三好さんの役割は、売上予定表や生産指示書といったツールを整えながら、生産管理体制を再構築していくこと。 「教える先生」ではなく、大山さんの「壁打ち相手」として、寄り添って進めていきました。

最初は、慣れた環境とは勝手が違い、戸惑う場面もあったそうです。
けれど、あるとき、ふとした既視感を覚えます。

目の前で起きていることが、自分が新入社員だった頃、30年前の光景と重なったのです。

「今回の状況を見て、『あ、うちも昔こんな感じだったな』って思えたんです。
今に至るまでの経緯を知っているから、どういう順序で取り組めばいいかもイメージできました」

当時は夢中でやっていただけの仕事。
新しいスキルを身につけたわけでも、学び直したわけでもありません。
それでも、環境が変わったことで、自分の経験が価値として立ち上がった瞬間でした。


アウェイで気づいた、自分の中の強み

越境インターンで三好さんが驚いたのは、自分の「何気ない知識」が相手にとって大きな価値になることでした。

会社というホームで、無意識に使っていた判断基準や感覚。
三好さんにとっては、あることさえ忘れていたほど当たり前のものでした。

でも、相手にとっては初めて聞く情報だったり、解決の糸口になる知見だったりする。
アウェイに出たことで、初めてそれがはっきりと見えてきたのです。

「自分の引き出しって、『なんでもないこと』だと思っていました。
でも、それが相手には価値があるんだって気づいて、ちょっと嬉しかったです。
自分の強みは“これ”と自分で決めるものじゃなくて、相手が決めるものなんですね」


ホームに戻っても、見える景色が変わった

アウェイで気づいた“センサー”は、インターン終了後のホームでも活きています。
以前は何となくやっていたことを、今は意図して使えるようになりました。

「ホームでは、今までスルーしていた事が、気になる様になりました。
人に聞いたり、調べてみることが増えて仕事の理解が深くなりました。」

また、今回の経験をきっかけに、資料作りや提案のためにAIを使ったり、図書館に足を運んだりと、新しい取り組みにも前向きになったそうです。

「30〜40年前と同じような、ノリノリの感じで。
そういえば、こういう仕事が好きだったな、こういう関わり方をしたかったな、と思い出しました」


アウェイで発見した自分の価値は、ホームで活きる

インターンを振り返り、ご自身の中で最も大きな変化を教えていただきました。

「新しい挑戦に対する心理的ハードルでしょうか。
参加前はすごく高いと思っていました。でも、やってみたら
『何かできそう』『次、何をやろうかな』と感じられるようになり、身構えも消えました。 外に行ってみて初めて、分かることってありますよね」

最後に、これからチャレンジする方へのメッセージを伺いました。

「ホームとアウェイの関係って、体感しないとわからないんです。
言語も人間関係も違う環境を行き来する中で、自分は変わっていないけど、
“見え方”や“使い方”が変わるんだと分かりました」

「『できるかどうか分からない』と立ち止まる前に、
『とりあえずやってみよう』と、前より広く考えられるようになりました。
これが、越境の本当の価値だと思います」

定年を前に、新たな可能性を見つけた三好さん。
越境インターンは、「力量を測る」以上に、自分の価値を再発見し、
これからの選択肢を広げる体験となりました。