越境体験がもたらす効果を役員自ら体感。社外でのご縁を大事にする人が増えれば、会社全体の推進力も向上する!/味の素ヘルシーサプライ株式会社 古川誠さん

味の素ヘルシーサプライ株式会社で、取締役執行役員として人事を所掌されている古川誠さん。企業としての導入検討のトライアルとして、自ら越境に飛び込まれました。
人事部門の長として、人事や組織づくりのプロフェッショナルとして、どのような期待をもって越境プログラムに臨まれたのでしょうか?

インターンシップ先は、北海道・帯広で「しったんのお城」という保育施設の運営や、ベビーシッター、病児保育を手掛ける株式会社しったん。東京から遠く離れ、規模も業種も異なる組織の課題にどう向き合い、伴走されたのか?2か月間の越境体験を終えたばかりの古川さんにお話を伺い、今後の展望についても語って頂きました。

参加の動機:人生のキャリアを考えるきっかけを体感し、自ら会社に広めたい

最初にこのプログラムの話を耳にしたとき、とても面白い取り組みだと思いました。
人事を担当する者として社員に人生のキャリアについて考えるきっかけを具体的に与えられること、私自身も会社人生の残り時間を意識するようになっていたこともあります。特に「地方」「つなぐ」というワードや、「越境+研修教育」というビジネスモデルに、他には無い可能性を感じました。
これが会社の制度になれば、社員も会社のお金で参加する以上、本気で取り組むでしょうし、受け入れ側にもフィーがかからないから、どちらも損をしない(笑)。良いことしかないですよね。
実は最初、当社の社長が「俺が参加する」と言い出したのですが、さすがにそれはやめて頂き、私が参加させてもらうことにしました(笑)。経営に携わる私が自ら体験することで、その価値を社員に広めていきたいと思ったのです。

役員自ら参加されることに、社員の皆さんの反応は如何でしたか?

今回の越境研修に参加することは、私が社員向けに発信している月2回のメルマガや、月次の会議でも取り上げていました。越境先が保育施設だったことにはかなり驚いたようですが、逆に面白がられて、メルマガにはイイネもたくさんつきました(笑)。

当社には元々「階段掃除は上から」の社風があり、「組織はリーダーの器以上にはならない」という共通言語があります。ですから、社員からは「あの人、また何かやってるわ」くらいに思われたようです。ちなみに、私のメルマガではかなりプライベートなことも明かしています。
例えば、好きなラブソング、食べ物ネタ、最近泣いた話など。最もイイネがたくさんつくのは食べ物ネタですが(笑)。おかげで、役員といっても「不完全」な存在であり、私に対して誰もが遠慮なくモノが言える、相談できるという意識づけにもなっているかと思います。実際のところ、我が社は社名や役職に関係なく、人間味のあるリーダーが多い会社だと自負しています。

役員と中間管理職は毎月1回、4時間ほどかけてリーダーシップについて考える勉強会も開いています。世界的なビジネス書である「ビジョナリー・カンパニー」を参考に、ヒエラルキーをつくらない関係性で経営をしている会社を目指しています。

大好きな日本酒を自宅で楽しむ

越境先の「しったん」さんでは、実際にどんな取り組みをされましたか?

まず、事前の研修としてのワークショップは楽しかったですね。様々な会社で経験を積んだ皆さんが集まって、いろいろな話を聞き、違いを理解し合ったりするのは本当に面白かったです。

越境でのチャレンジを「認知限界の突破」とした私に紹介された、(株)しったんでのミッションは、従業員間のトラブルを発端に関係性が崩れ、悪循環に陥っている組織をどう立て直すか?という重めの課題解決に向けて、伴走するというものでした。

最初は、私が大事にしている会社の原理原則をインプットし、お悩みを聞くところから始めました。お悩みの背景にある本質の課題の「仮説」を立て、それに対する「施策」を作ろうと試みます。そこで、自分の得意パターンにはめ込もうとしている自分に気が付き、そうじゃないな、と方向転換しました。しったんさんが求めていることとは違う、もうちょっと話を聞きたいなと思いましたし、それなら相手に寄せる方に全振りしようと考えて、現地帯広に出向くことにしました。朝帯広について保育園の現場を見せてもらい、リーダーや園長さんとじっくり話すうちに、気づけば5~6時間が過ぎていました笑。

保育園として大事にされていることはリーダーメンバーが共通で持っていたので、「じゃあ具体的にどうしたらいいか」をいくつかパターンを挙げながら一緒に考えました。その日はそれで終わったのですが、後日、同じメンバーで話をしたと聞いて嬉しかったですね。「しったん」として外してはいけない「枠組み」を作っていこう、と方向性が見えてきました。

今回しったんさんで起きた問題は、背景こそ違いますが、大手企業でも同じような事例が沢山あります。だらこそ、私自身も「自分の得意技を一旦手放し、相手の視点に切替えて見る力」の大切さを実感しました。

2ヶ月の越境体験を終えて、どのような感想を持たれましたか?

「しったん」さんは、日頃全く接点のない、バックグラウンドの異なる皆さんが働く北海道の会社ですが、どなたも本当に一生懸命でした。保育士としての仕事に誇りを持ち、もっとよくしたいと考えている。ただ、組織として大きくなってくる中で初めて人事的な課題にぶつかり、どうしたらいいかわからないから困っていたわけです。本当にまっすぐで温かい方々ばかりなので、応援したくなっちゃいますよね。

こうしたご縁は、作ってナンボだと思います。越境する側も受け入れる側も、お互いを知り、わかり合うためには「対話」が必要です。この大切さを学べたことが、大きな収穫でした。もし越境先が人事部門など人事の知識がある方々だったとしたら、自分が普段やっている得意技や成功パターンの展開・共有で終わっていたかもしれません。

特に印象に残っていることは、5~6時間の対話を通して、本音が変化したことを感じた瞬間です。ご提案した「枠組み」の必要性を皆さんに感じていただけたことも嬉しかったですね。パーパスはとても大事ですが、その都度ブレが無いか?を確認することも大切だとお伝えしました。

今回の最大の収穫は、一生のご縁になるかもしれない「しったん」さんとの出会い、帯広という土地とのご縁です。この先も継続していくことになり、楽しみです。

これからチャレンジしようという方、制度導入を検討している企業様へのメッセージをお願いします

何より、楽しんでやってほしいということですね。ご縁がつながることを面白がり、そのご縁を大切にしてほしいです。越境先は、自分の力を試す道場ではありません。自分の培ってきたポータブルスキルを使いながら、受け入れ先のお役に立ちたいという思いで、先方が何に困り、悩んでいるのか?ひたすら耳を傾けてください。座学でインプットした内容とは異なり、現場では「目的地」を自分で決める必要があります。

そして、繋がったご縁を大切に、「やってよかった」と心から思えるように取り組んで頂きたいです。

経営の立場からいうと、ご縁を大事にする人が社内に増えると、お互いがお互いのことをわかり合おうとする風土が生まれます。社内の縁も社外の縁も取り込んでチカラにすれば、自分がやりたいことの推進力にもなると思うのです。

これが合わさると会社全体の大きな推進力になることを、越境を通して実感しています。

人生の師匠、日本の修験者である田中利典さんと