慎重だった私に待っていた、新たな世界・CAN(できること)を生かしてベンチャー支援/5期生 宮下智子さん(仮名)

社会人歴30年余り。上級管理職まで上りつめた宮下さん。40代後半から自分に自信を持てない苦悶の時期があった。フェイスブックで偶然見かけた「セカンドキャリア塾」の言葉にひかれ、自分と向き合う時間をつくり、じっくりと心の準備を整えてきた。いざ、関係を持ったインターンシップ先では、これまでとは想像もできない新しい世界が広がっていた。

※(上記写真はインターンシップ受け入れ先のA-Ventures(株)の社長や社員との懇親会。親子ほど離れた異世代協働は、何もかも新鮮で互いの刺激につながった)

アイスクリーム会社の初代女性営業職から大手メーカーに転職。営業事務職を経て、人事の上級管理職に。

新卒でアイスクリーム会社に入社しました。ここのアイスクリームは好きでしたが、店内がきれいじゃない。しかし、本店はきれいでした。「私が日本中のお店をきれいにして、このアイスクリームの素晴らしさを全国の人に伝えたい」と意気込んで、女性初の営業職として入社。ただ、就労環境や処遇が悪いことに気づいて、2年目で大手メーカーに転職しました。中から営業を支える仕事がしたいと、営業事務の仕事に。全国に30~40の事務所があって、私が所属する事務所は全国で一番営業職が仕事がしやすい場所にしたいと17年間勤めてきました。

2005年、職種そのものが整理されてなくなり、人事へ。かれこれ18年になります。教育研修、社員採用に始まり、人事のビジネスパートナーとして組織開発や人材開発を担っています。子供2人に恵まれ、家庭優先で管理職になるのを断ってきましたが、想定外に教育費がかかったこともあり、意を決して管理職試験を受け、現在は上級管理職となっています。

 

「自分は足りていない」、周りと比べて焦燥感にさいなまれる日々。ふと開いたフェイスブックの画面に引き込まれる。

会社は外資系で、直属の上司は外国人。あらゆることにスピードと知識が求められます。日本では大学で人事を学んできた人はわずか。海外の同僚は人事関連の学位を取っている人も多く、スタート時点が違います。営業から人事というキャリアに限界を感じていました。自分より10~20歳若い人と働いていると、エクセルの使い方ひとつとっても開きがあります。英語をネイティブレベルで話している人についていけず、いろいろな葛藤がありました。

会社で長く働いていると、さまざまな顔をしながら仕事をしなくてはいけません。実際に人事の仕事は人材採用や昇格といったポジティブな仕事が半分、残りは労務案件やパフォーマンスが上がらない社員の対応などのネガティブな仕事が半分。自分が気に入る顔と、気に入らない顔がありました。「こういう自分でありたい」という、理想像に近づける時間を増やしたいというのもきっかけでした。

そんな時にふと開いたフェイスブックで目に飛び込んできたのが、大桃綾子さんの言葉。「大企業で働いていた時、周りの上司が年齢を追うごとに輝きを失うのをもったいないと感じていた」。焦燥感にさいなまれているときに、この言葉は私に響きました。

(雨の青森。写真は青森市に本社を置く、青い森鉄道)
(雨の青森。写真は青森市に本社を置く、青い森鉄道)

 

まずは、「自分の棚卸し」から。じっくりと時間をかけて、青森のベンチャー企業にインターンシップへ。

2拠点生活を目標にしている人がいたり、マーケティングや英語の力を生かしてセカンドキャリアをスタートさせていたり、キャリア塾での出会いと学びは、驚きの連続でした。私には何ができるのだろうと取り組んだ「棚卸し(キャリアの振り返り)」では、想像以上の発見と学びがありました。人事なのでこれまでも研修として社員に提供したり、経験のために自身で取り組んでみたことはありますが、真剣にやったことはありませんでした。

それでも実際にインターンシップとなると、30年の社会人歴がいろいろと邪魔をして、不安と躊躇があり、なかなか前に踏み出せませんでした。そんな私を大桃さんは忍耐強く支援してくれました。
初めに紹介されたインターンシップ先は、パワフルな経営者に圧倒されてしまって、「自分には無理」と断ってしまいました。

そんな時に、同じ業界で人事をされていた土居さん(セカンドキャリア塾・キャリアコーチ)とお話をする機会があり、「自分は人事の仕事は好きではないし自信もない。それ以外の分野を探したいが、何ができるかわからない。」と話したら、土居さんから「まずはできることから、『CAN』から初めてみるのもいいのではないですか?」と勧められたのが、青森県のA-Ventures(株)でした。どんどん大きくなり、人も入ってくる中、入社から独り立ちするまでのプロセスを早急につくる必要があるといい、そのお手伝いをさせていただきました。インターンシップは、フルリモートで週に1回、計5回のミーティングを通じて取り組みました。支援といっても、既にこの企業が取り組んできたことの洗い出しと整理から、ゴールとタイムラインを設定することのお手伝いでした。

(1カ月のインターンで実施した課題整理のワークで使用したポストイット。今も社内のホワイトボードには掲示してある)

 

インターンを通じて自分の「強み」を再認識。地方のベンチャー企業のミッションに深く共感し、支援できたことが嬉しい。

インターン先は、フルリモートで働く人も多い組織なので、入社直後に一人ひとりと対面する「1on1」を勧めたのですが、「導入してよかった」という担当者の声や、新入社員が育成プログラムがしっかり準備されていることに感動したという話をいただき、「自分でも役に立つのだ」と思いました。

インターンを通じて、自分では気付いていなかった「強み」を認識しました。アドバイスができたのは、これまでの経験値が役に立っていると。自分の経験を評価することなど、これまではありませんでした。

インターン終了後、実際に青森に足を運びました。実務担当者の20代、30代の2人の女性が、私と会えることを非常に楽しみにしてくれたのです。年代もバックグラウンドも異なる私たちは、互いに刺激を受け合っていました。その様子を見ていた社長が、「今後も支援をいただきたい」と、副業としての業務委託の運びになりました。こんな出会いがあるのだとびっくりしています。行ったことのない街で、違う生活をされていた方たちとこんな風に関わり合えるなんて。何よりも嬉しかったのは、社長の思いに共感するものがあり、私が必要とされたということです。もともと銀行家の社長は、中小企業がもっとスムーズに資金調達できるように、ノウハウをコンサルタントしています。中小企業をサポートして地域社会をよくしたいという思いに私も共鳴しました。

(ねぶたで有名な青森。初めて訪れた場所で、新しい関係がスタートしている)

 

世界が横に広がる経験。セカンドキャリアの道が見えてきた今、悩んだ時期も無駄ではなかったと思う。

具体的にどう動き始めるか、A-Ventures(株)でお手伝いできることはありそうだと感じました。確実に言えることは、世界が横に広がったと感じることです。

私からのアドバイスというほどではありませんが、会社の中で働くと結局、「できている」「できていない」の二軸で評価されます。そうすると、自分の「持っている」ものよりも「持っていない」ことに目が行きがちになります。もちろん会社にもよりますが。「持っている」ことに意識的に目を向けることも大切だと思いました。私自身そう思えるようになるのには、時間がかかりました。ある程度の職位になり、見合う給与をもらい、結婚して子供もいて、外からみたら「もういいじゃん」と思われるかもしれませんが、本人はすごく自信がなくて、40代半ばの、働き盛りが過ぎた頃から、できないことや、ついていけないことが多いと感じるようになり、自分で自分を責める期間が長かったのです。そうした苦しい期間を経たからこそ、インターンシップでは、相手のテンポでじっくりと話を聞くことができました10年前の私だったら、できなかったのかもしれません。当時は、自分主導で進めていたと思います。そうなれば、A-Ventures(株)と今のような関係は築けなかったでしょう。

大桃さんと土居さんには、感謝してもしきれません。戸惑い、迷い、いつまでも明かりが見えなかった私に、忍耐強く接してくださいました。無理に後押しすることもなく、私のタイミングをみて待っていてくれたというのが、大きかったです。