退職までに自分の生きる道を探る・「サステナビリティ」を軸に活動へ/6期生 松沼彩子さん(50代女性)

都内企業に30年務めてきた松沼彩子さんは、異動をきっかけに自分の働き方を見つめなおした。会社の早期退職制度を活用して、退職までの2年間、自分を深める時間を重ねた。セカンドキャリア塾でのさまざまな出会いや経験を生かし、次のステップは東北復興支援の体験から続く「サステナビリティ」を軸に活動したいと考えている。

(※上記写真は、セカンドキャリア塾の先輩大塚さん(右端)の畑で大豆の収穫ボランティアを楽しむ松沼さん(左端))

異動で転機を迎える。会社や組織が大きく変わったと実感。自分の居場所は、、、。

セカンドキャリアについて考えるようになったのは、2年前です。新卒で現在の会社に入社し、当然のように営業畑を歩き、グループの飲料会社、出向先での勤務も経て2020年4月、グループ本社に戻りました。異動先のサステナビリティに携わる部署は古巣でしたが、以前と大きく環境が変わっていました。

海外事業が拡大し、よりグローバルな視点で業務することが増えました。海外とのやりとりも初めてで、以前のように現場と直接関わることは少なくなりました。心の中でヒタヒタと、会社や組織が大きく変わったと実感する時間が増えていったのです。「私は現場と動くことが性に合っているのではないか」とも悩みました。

そんな時、会社の早期退職制度が発表されました。
以前より退職金が優遇されていたこともありますが、退職する期間を選べるのが最大の特長でした。もしかしたら、このタイミングでなければ、60歳まで同じ会社で働き続けていたかもしれません。しかし、あえて「コンフォートゾーン」を抜け出して、残りの人生は自分の性に合った生き方を見つけようと退職を決意しました。

当時50歳と若かったこともあり、最大2年という退職までの期間を活用して会社で働きつつ、自分の時間を使ってNPOなど社外の活動に参加しています。2023年12月末の退職まで、2年間じっくりと考える期間を得ました。

迷わず参加を決めたセカンドキャリア塾。きっかけは、東北支援で出会った大塚さんとの再会

東北に関わったのは、3・11の東日本大震災がきっかけでした。たまたまこの年に出向先からグループ本社のCSR(企業の社会的責任)部に異動していたのです。会社は震災をきっかけに、寄付やボランティア活動にとどまらず、中長期的に被災地を支援する取組みを始めました。

中でも印象に残っているのが「希望の大麦プロジェクト」です。
被災した沿岸地で大麦の栽培や加工販売することで、地元に「なりわい」と「にぎわい」を生み出そうという取り組みです。何度も宮城県東松島市に足を運び、現地の産・官・学・民の方を巻き込み、立ち上げから携わりました。

「地元で取れた大麦でクラフトビールを作りたい」。そんな突拍子のないアイデアも「ミスター大麦」と呼ばれる研究所の同期に相談したり、試行錯誤したりして実現に漕ぎつけました。周りを巻き込んでいると「何か面白いことをやっているね」と話題になり、事業そのものが注目されるようになりました。

東北支援の一環で2013年に出会ったのが、セカンドキャリア塾の先輩、大塚洋一郎さん(68)でした。大塚さんは30年間、国家公務員として働いた後、55歳で「食と農の連携」をテーマにNPO法人を立上げ、当時、東北のいちご農家の支援をコーディネートいただきました。

その後、セカンドキャリアを考え始めた2022年に、67歳で就農された大塚さんに再会し、心境を相談すると、「だったらこれに参加した方がいいよ」と、このプログラムを強く勧められました。
大塚さんのようなキャリアチェンジをした人から話を聞きたいと思い、あまり深く考えずに飛び込みました。もちろん会社にもセカンドキャリアについて考える研修や制度は整っていましたが、自分の意志できちんとお金を掛けて受講してよかったと心から思っています。

会社の研修と違って、「私のことを誰も知らない」という安心感もありました。会社での立場を考えず、また先入観で見られることもなく、素の状態で参加することができました。

(大塚さんと再会した時の写真。大塚さんの周りには、常に多彩で多様な生き方をしている人たちがいた)

インターンシップ先で「サステナビリティ」を軸に活動できると自信。会社では得られない多様な経験がポートフォリオを深めた。

インターンシップ先は、北海道・十勝地方にある十勝川温泉観月苑ホテル。

ちょうどSDGs宣言をし、社内外で具体的に展開していく計画づくりに携わらせていただきました。打ち合わせの初期に、支配人から「うちの社員に国連の方針だとか、難しい説明をしても伝わらない」と言われたことが、非常に印象的でした。会社で当たり前のように使ってきたSDGsやサステナビリティの定義や言葉を、もう一度見直して誰もが分かりやすく、相手に合わせて資料を作りました。

また、ホームページにSDGsのページを作る時に、何を中心に訴求するか悩まれていました。それまでの打ち合わせの中で従業員を大切にされていることが伝わって来ていたので、「従業員の顔を前面に」とアドバイスしたら、その通りの構成になっていって、非常に嬉しかったです。
観月苑のSDGs | 【公式】十勝川温泉 観月苑 (kangetsuen.com)

インターンシップの体験で、私が12年間携わってきた知識や経験が外でも役に立つのだと実感し、「サステナビリティ」をセカンドキャリアの軸にしていこうと自信につながりました。

このプログラムを通じて多様な働き方や生き方をしている人と幅広く接することができました。自分のポートフォリオを厚くすることもできました。キャリアにおける年収へのこだわりも、捨てることができました。
これまでは年収は自分の評価そのものだと思い込んでいました。大塚さんを通じて知り合った40代の方が、「自分の収入は最低賃金のレベルかもしれないけれど、何一つ自分が嫌だと思うことはやっていない」と話されていて、これまでの概念が見事に打ち砕かれました。

12月末に退職を控える現時点で、企業への転職は考えていません。「サステナビリティ」を軸に、フリーの立場で、SDGsの取り組みを必要としている企業や自治体をサポートする仕事に挑戦したいと考えています。

(松沼さんがインターンシップで携わったホテル観月苑のホームページ。新たに追加されたSDGsのページでは従業員が前面に出ている)

多くの人と出会って価値観に触れること。タイミングと時間を重ねることが大切。

どんなことでも言えることですが、何か一つ受けてみたら、劇的に変わるという期待はしない方がいいと思います。私自身、もっと前に受講していたら、果たして響いていたかどうか分かりません。多くの人に出会って、さまざまな価値観に触れることで、その人自身のタイミングが発見できるのかもしれません。

今、セカンドキャリア塾の同期や卒業生の活動、交流が非常に活発で、刺激を受けています。外に出る時間を重ねることが、セカンドキャリアを考える上で大切だと私自身の経験からも思います。

(十勝川温泉観月苑のフェイスブックで紹介されていた、従業員の美化活動。SDGsの研修をきっかけに活動が持続していることを知り、嬉しくなったという)