自営業のセカンドキャリアは「必須課題」小さくても長く続けられる2本目の柱を見つけるために、北海道浦幌町へ/7期生 国江千文さん

20数年、フリーランスでグラフィックデザイナー、ディレクターとして働き続けてきた国江千文さんは、60代、70代になっても仕事をしたいと願っている。今の仕事を可能な限り頑張るのはもちろん、小さくても長く続けられる2本目の働き方として見据えたのが、「農や食に関わる生活」だった。都会から遠く離れた北海道・十勝の浦幌町で出会った人々や体験に魅了され、これからのきっかけをつかもうとしている。

※上記写真:どこまでも広がる大豆畑を歩く国江さん。北海道浦幌町で野菜の収穫や雑草抜きなど土にまみれることは、これまでになかった体験

365日休む暇もないような毎日。今後も働き続け、生活できるよう「新しい何か」に出会いたいと思い切って扉を叩いた。

大学を卒業後、システム会社で営業をしていました。
その後、「手に職を持とう」と、興味を持った制作の世界に飛び込みました。紆余曲折あってフリーとなり、グラフィックデザイナーとして20数年、さまざまな制作に関わってきました。ライターやカメラマンたちと共に作り上げ、web会社のディレクターとしても活動。大変ですが、自分の知らないことにぶつかっては、勉強の毎日を送ってきました。

ただ、働き方としては365日休む暇もなく、年齢を考えるとこのままのペースでは走れない。AIの活用など目まぐるしく変わる時代に、今の仕事のやり方だけでいいのか不安に感じ、もう1本少額でも長く続けられる「何か」を持ちたいと思っていました。
なかなかアクションを起こせないでいた中、日経xwoman主催のビジネスセミナーで学んでいるときに「セカンドキャリア塾」を知り、「日経xwomanと組んでいるなら間違いないのだろう(笑)」と飛び込みました。

「地方共創」を掲げるセカンドキャリア塾。「なぜ、地方なのだろう?」という疑問もありました。
コーチングでセカンドキャリア塾の北村貴さんに、「実際に地方に行ってみてはどう?」と背中を押され、思い切って2023年9月に1カ月間、浦幌町でリモートワークをしながら、農業体験をしながらデザインを教える「大人のインターンシップ」を体験しました。

デザイン関連の仕事をする国江さん。一般企業、自治体など幅広いクライアントと関係を持ち充実しているが、悩みはつきない

まったく異なる環境に身を置き、人間らしいと感じる生活を体験。まちづくりに情熱をかける若者との出会いも刺激に。

2、3日、仕事や旅行で家を空けることはあっても、1カ月なんて初めてでした。
ずっとパソコンや机に向かっているか、打ち合わせで屋内に籠もるばかりの生活。まったく異なる環境に身を置き、浦幌町で頑張る人たちと会い、畑作業で汗を流す。本当に人間らしい生活を送ることができました。

インターンシップでお世話になったのは、浦幌町のまちづくりを手掛ける一般社団法人十勝うらほろ樂舎
地元をはじめ、全国各地から若い人たち、各方面の経験者が集まり、その思いや活動内容に驚きました。人口4,200人の浦幌町ですが、20代、30代の若い方が地域を盛り上げようと頑張っている姿に、「ここまでやるのか」と感銘を受けました。

午前中は、うらほろ樂舎でデザイナーを目指す20代の伊場遥さんに、デザインの基本を教え、また、農業体験もしました。
伊場さんには、制作で何が大事なのか、心構えや知識など、ごく一部ですがレクチャーしました。樂舎の方からは、「伊場さんが見違えるように変わった」と喜ばれました。
農体験では農家さんの話を聞き、十勝の広大な大豆や白花豆の畑で、顔から汗を流し、泥だらけになって雑草を抜きました。私の作業は、広大な農地からするとたいしたことはありませんが、無心になれ、心から楽しいと思える充実した時間でした。
午後からはリモートワーク。仕事まわりの道具は一式持参していたので、東京と変わらず集中できました。

大人のインターンシップで関わった十勝うらほろ樂舎にて、デザインを学びたい伊場さん(右から2番目)に制作の基本を伝えた
浦幌町の井上亨町長にご挨拶。記念写真も

農や食に関わりたい―。生きていく上で必要な「衣・食・住」。農業に近い生活をどこかでできれば。

セカンドキャリアがなぜ農業だったのか。それは、今の稼業とまったく異なる世界がいいという気持ちと、もともと土の匂いが好きだったこともあります。
自分で経営など大掛かりなことではなく、農家の方が必要とする時期に草抜きや、収穫などのヘルプでもいいかもしれません。また、自分のできるデザインを通じて、お手伝いできることがあるかもしれません。
日本の「食」について考え、携わることは、本当に大事だと思います。
私自身の今後を考えても、贅沢をしなくてもいいので農や食に携わり、「衣・食・住」がある安心を得たいと思っています。

日本の農業トップを走る十勝。畑の広さだけではなくトラクターも大きい。トラクターを動かすわけではないけど汗をかきながらひたすら土に向かう体験が「楽しくてたまらなかった」と語る

小さなステップでもいい。やってみることで感じ、見えてくる新しい世界。

人生は一度きりです。
だれでも充実した生活を送りたいと願う中、慣れ親しんだ日々から、まったく違う世界に飛び込むことは戸惑いもあるでしょう。どんなに低いジャンプでもいい。やってみることに大きな意味があると思います。知らなかった世界を知ること、感じることが大事。

実際に、私は浦幌町とは縁もゆかりもありませんでした。踏み出してみなければ、浦幌という町があることも知らなければ、農業やさまざまな人との出会いもありません。
自営業の自分にとってこれからどうしていくかは、「必須課題」です。
キャリア塾のワークを通じて、立場や環境は異なりますが、同じ年代の人たちが、私と同じように悩んでいることも分かりました。仲間ができることも楽しいです。

また、これを機会に株式会社TERRACOYAさんと一緒に、セカンドキャリア塾のホームページのリニューアルに携わらせていただきました。
1年前の自分にはまったく想像していないことでした。今後のことは決まっていなく、まだまだ考え中ですが、これからもこの出会いを大事にし、セカンドキャリア塾の皆さん、浦幌町の皆さんと交流を続けていきたいと思っています。

心が洗われるような大きく広い大地と海。浦幌町は広大な農地だけではなく豊かな自然に囲まれている
事例公開に寄せて~Dialogue for Everyone(株)大桃

当社プログラムを自ら体験した卒業生である国江さんに、サービスサイトをデザイン・ディレクションいただけたことは、当社にとって、とても嬉しいことでした。
「50代大人のインターンシップって何?」と言われることが多い中で、ご自身が体感した経験を織り込み、私たちだけではつい盛込みすぎてしまう情報を、シンプルにそぎ落としながら、分かりやすさの質を上げる、難易度高いリクエストを丁寧に実現して下さいました。
当社の大人のインターンシップ、通常はオンラインで2ヶ月ですが、国江さんは1ヶ月北海道浦幌町に滞在する、新しいケースを切り拓いた初めての卒業生でもあります。これは個別マッチングだからこその面白さで、当社メンバー一同、セカンドキャリアの可能性はまだまだ拡がる、とわくわくしました。
人生100年時代、セカンドキャリアはまだまだこれから。末永くご一緒することを、私たちも楽しみにしています。