化学メーカーでの経験が、農園で生きるとは思わなかった/3期生 Sさん(50代男性)

大手化学メーカーで働くSさん(50代男性、東京出身)は研究、製造部門を経て、現在は品質管理を担当しています。転職経験がなく、異業種で働いたこともありませんでしたが、セカンドキャリア塾で、北海道士幌町の夢想農園でのインターンシップに参加することに。農園代表の堀田隆一さんと共に取り組んだ業務内容は、農園の主力作物である白カブの品質強化でした。

最初は異業種への挑戦に不安を感じていたSさん、しかし、インターンシップ業務を重ねるうちに、Sさん自身も驚くような成果が現れました。そんなSさんに地方セカンドキャリア塾に参加した感想やインターンシップを通じて感じたことを伺いました。

社外の人たちだからこそ、素直に自分の考えを話せた 

Sさんはセカンドキャリア塾の3期生。最初は、塾のプログラム(キャリアプログラム)である、参加者とのワークショップなどを経て自身のキャリアを整理し、地方のインターン先でどのようなスキルを生かせるのかを考えていきました。Sさんにとって普段関わりのない、さまざまな業種から集まった参加者とのやり取りは新鮮でした。 

「異業種の方ばかりで、知り合いでもありませんでしたので、素直に自分の現状や考えを話せました。これが社内のメンバーとだったら、言いにくいことや聞きにくいことを忖度してしまうと思います。自分と他のメンバーの状況を比較する必要もなく、じっくり深掘りした話し合いができました。」 

他の参加者の意見やSさんへのアドバイスは、自身のことを見つめ直すきっかけにもなったとSさんは言います。

「『普段から自分の身の回りや行動を整理しておかないとだめだよ』と言われたことは印象に残っています。また『他の人と話していると幸せ感がある』『人からアドバイスをもらうことで漠然とした想いに確信が持てた』と話す方もいて、1人ではなく、色々なメンバーの意見を受けて内省するのが重要だなと思いました。色々な方から色々な意見をいただくのが、すごく新鮮で良かったです」 

大変なキャッチボールの中で得た充実感 

Sさんは、キャリアプログラムでの学びを実践する場として、地方企業でのインターンシップに臨みます。面談では、自分のこれまでの経験やスキルを踏まえて、インターン先が抱える悩みに対して何ができるのかを考え、改善策を提案していきました。 

「自分がやってきてそれなりに成果があったもの、取得して実際に利用したことがある資格など、過去、自分が経験したものじゃないと提案できないなと思いましたね。社内にいて何か提案することは比較的容易に出来ますが、社外へ一歩踏み出して(インターン先のためになることを)新たに提案するのは難しかったです」 

その中、マッチングが成立したのが、北海道士幌町と音更町にある40ヘクタール(約40万平方メートル)の農地でジャガイモやテンサイ、白カブ、水菜、パクチーなどを栽培する夢想農園です。従業員はパートを含めて約30人。代表の堀田さんは、白カブの病気を防ぎ、品質管理を強化したいと考えていました。

Sさんは工業、堀田さんは農業と、畑違いの組み合わせです。2人はこれまで取り組んできたことを話しながら、お互いへの理解を深めていきました。課題への解決策として、白カブの品質管理工程を策定することとなりましたが、Sさんにとって、その生産工程を理解するのは大変なこともあったそうです。 

「今まで自分が経験したことがない話を聞いて、理解しないといけない。堀田さんの話を自分の中に取り込んでストーリーとして組み立てるのが難しくて。私が考えていることも理解してもらわなければいけないので、キャッチボールが大変でしたね。それでも、社外の人に今までの経験から出来うることを提案して、それが相手に伝わって、実際に実施できるというのが楽しかったですし、良いことだなと思いました」 

現場の感覚でやっていた農作業を“見える化”する 

初めて農園へ向かう日、「まずは現地でいろいろなものを見て、頭の中でちゃんと理解して、自分が提案したことがうまくいきそうかどうかを確認したいです」と、ようやくスタート地点に立てた喜びと意気込みを話してくれたSさん。

「今日は、農作業をする上でのチェックポイントや改善策といった、堀田さんの頭の中で整理されていることを形にするのが重要だと考えています。忖度なしにお互いの考えをぶつけ合って、堀田さん自身がPDCAサイクルをうまく回していけるような品質管理工程が作れればいいと思います」 

これまでトップの判断や現場の感覚でやってきた農作業の行程一つ一つを、Sさが実践してきた工場でのノウハウを生かして整理し、品質管理工程に“見える化”していく。Sさんはこの作業を、堀田さんの“伴走者”として、丁寧にコミュニケーションを取りながら進めていきました。

「私はあくまでも伴走者です。私が現地で作業をするわけではないので、堀田さん自身が(品質管理工程について)理解して進めるのがすごく重要です。私が思ったことや考えたことを伝えて、キャッチボールしながら進めていけば、全体の工程図が出来るんじゃないかと思います。現地で作業を見られたので、より上手く進行しそうな気がします」 

協力して品質管理工程が完成、活用して改善へ 

インターンシップは農園の繁忙期を避けて、2022年1月から3月まで、主にオンラインで行われました。Sさんは現地訪問後も堀田さんと隔週でやり取りし、一緒に白カブの品質管理工程を策定していきました。そして、ついに完成した工程は現場でしっかりと活用されることに!

Sさんはインターンシップ終了後も夢想農園に関わり続け、2022年夏に再び農園を訪問。白カブの収穫工程で黄色くなった葉を取り除く作業などに取り組み、共に策定した品質管理工程が実際に使われている現場を体験しました。

そこでは割れていたカブを見つけ、「急に雨が降って割れてしまった」という堀田さんに対し、「それは事実なんですか」とSさんが問いかける一幕も。農業ではそれまでの経験からあいまいに処理されがちな事柄についても、「原因を検証すべきではないか」と異業種のSさんならではの視野が活きた瞬間でした。

堀田さんも、「Sさんとは異業種だからこそ、同業者に話せないことも相談できた。一緒に取り組むことで、抱えていた悩みや課題に希望の光が見えてきました」と全く異業種の視野や経験を持つSさんと組んだからこそ、様々な気づきがあったと語ります。

Sさん自身も最後に「まさか化学メーカーでの自分の経験が、農園で生きるとは思わなかった」と驚きながら話してくれました。今後は現場で見つけた改善点に顧客の視点も加えて、堀田さんとの二人三脚で更なる工程の改良を進めていきます。

(※インターンシップで策定した品質管理行程図が現場でしっかり活用されています!)


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