キャリアの典型的な「ロールモデル」ではなく、「自分の軸」を取り戻した今は、セカンドキャリアへの“助走期間”/8期生 代英理さん
IT業界大手を渡り歩きマーケティングを極めてきた、代英理さん。
変化や競争の激しい世界に身を置いてきたが、自分の働き方や目的を見直し、自らのキャリアの「新しい可能性」を探る一歩を踏み始めた。
宮城県丸森町でのインターンシップなどを通じて、関係する人や興味の範囲を広げる過程を「セカンドキャリア」の“助走期間”ととらえ、自らの変化を楽しんでいる。
(※上記写真はインターン先・丸森を訪れた時の一枚。右から2番目が代さん、同3番目が受入先代表の山下さん。)
外資系IT業界複数社を渡り歩き、マーケティングを極める。変化に対応し、競争の激しい業界に身を置いてきたが、業界典型の「ロールモデル」に違和感。「地方共創」の文字に惹かれ迷わず入塾へ。
社会人になってからずっと、マーケティングの世界で仕事をしています。
外資系IT業界は技術の革新と共に人が頻繁に組織を渡り歩く世界で、私も約7社ほど転職を重ねています。
1年半前に転職した外資系IT企業でもマーケティングマネジャーを務め、上司は海外在住シンガポール人で、完全フルリモート。主に、見込み顧客を獲得するための「リードジェネレーション」に携わっています。
手掛けている製品はニッチな分野ですが、金融機関や通信業など大企業を中心に引き合いが多くあります。現地法人のスタッフは私を含めて総勢20人ほどの小さな職場ですが、転職前の3社はいずれも大企業でした。
転職を重ねながら昇進し、部門の責務を司るダイレクター、部長職へというのが典型的な「ロールモデル」ですが、それは自身が目指す道なのか長いこと自問自答していました。
私の得意領域は、新規事業の立ち上げに携わること。まるでオリンピック周期のように、4年のサイクルで更新していく働き方をしていました。今の会社に転職したのは、子育ても理由の一つです。娘が小学校を卒業する前の子供らしい多感な時期に、側に寄り添う時間が欲しいという思いもありました。
今携わっている最先端のITは、私たちの日常にはあまり反映されていないと思ったことが、最初に入塾するきっかけでした。
「ITで暮らしが変わる」とよく言われますが、自身が関わる育児や介護の領域では直接はほぼ活用されていない。仕事とは別の業界や業種と関わり、もっと身近な社会に貢献したいという気持ちがありました。
たまたまネットで目に入ったセカンドキャリア塾の説明会で、ほぼ迷いなく即断で応募を決めたのは、こうした「もやもや」があったからです。長年、首都圏中心で仕事をしてきて、地方と連携することが少なかった自分には「地方共創」という言葉も惹かれました。
宮城県丸森町でのインターンシップ。女性起業家の「強いメッセージ」に触れ、マーケティングの基礎に立ち返る。
昨年末からインターンシップで協働したのは、女性起業家の山下久美さんが立ち上げた「マメムギモリノナカ」(宮城県丸森町)。
町内の養蜂園で余剰となっていたミツロウを有効活用して「ミツロウラップ」として商品化しています。
実際にインターンシップ前に製品を取り寄せて使ってみたのですが、ミツロウラップでキュウリなどの野菜を巻いて冷蔵保存すると1週間経っても新鮮なまま。地域の未利用の資材を有効活用する素晴らしい事業だと思いました。
「ミツロウを何とかしたい」との熱い思いで突き進んでこられた山下さんの当時の課題は、販路拡大。マーケティングの観点からも、いくつか課題がありました。
山下さん自身の思いをもっと率直に伝えた方がいいと話し、ホームページの構成やデザインの改善に繋がりました。山下さん個人ブログのSNS投稿も続いているようです。
他社との事業連携の話もあり、事業の目的や期間、予算の立て方など基本的なところから整理して可能な範囲でアドバイスしました。
昨年は民間の経営大学院にも通い、改めてマーケティングの基礎を学び直しました。本業のIT分野は経験が長く、ある程度自分の勘所が働きます。
フレームワークに沿って、事業の強みや競合他社との相違点、市場ニーズなどから分析を行っていくのですが、全く異なる商材を展開する山下さんと出会ったことで、改めて自分の固定概念や先入観からプランを策定するのではなく、「この事業への熱い思いを正しく世に届けたい」という強いメッセージをいかに体系化するか、という基本に立ち返ることができました。
インターンシップ実施前には、セカンドキャリア塾同期の仲間たちと2,3カ月かけてオンラインで開催されるワークショップで自己分析を度々行いました。
最初の頃は「育児や介護など実生活には取り入れられていないITの活用で社会に貢献したい」と話していたのですが、ワークショップを重ねるうちに「何だか今までの仕事の延長みたい。ワクワク感に欠ける」と変化。新たな内面に気づけたのは発見でした。
最終的に「せっかく時間を使うのであればもっと楽しいこと、自分が好きという方向に突き進んだ方がいいのではないか」と思うようになりました。これも、さまざまな方と意見を交わし合えたワークショップならではの「気づき」だと感じています。
フェイスブックへの投稿に付いたたくさんの「いいね」自分を見つめなおし、関係する人を徐々に増やしてきた集大成。
次のステップを踏み出しているのか否かは分かりませんが、今は助走期間だと捉えています。
前職までの勤務は、やり甲斐は大きかった分、業務量も多く時間に追われ、コロナ前は海外出張も頻繁でした。それはそれで貴重な経験ではありましたが、目の前の目標をこなし、自分のポジションを築いていくことしか見えていなかった気がします。
今の仕事は、ある程度自身で管理ができ、自己研磨への時間も得ています。自分の時間も大切にしながら、業種を問わず新しい人脈を増やしている最中です。
自分の好きな食べ物を食べたり、本を読んだり、自分の興味や関心のある軸、感性を取り戻していると言ったらいいでしょうか。
山下さんがワクワクすることに向かう姿をみていると、働くことは「条件」だけでなく、「何を目指すのか」が大切だと思い、立ち止まることもできました。「自分軸を取り戻す」期間を持てたからこそだと思っています。
先日「子供が小学校を卒業しました」とフェイスブックに久しぶりに投稿した際、今までとは違う繋がりの方々から「いいね」をいただき、この1年半の自分の活動範囲が可視化された、新たな関係を築いてきた集大成ではないか、と感じました。
半径数メートルの関係からは想定できるアドバイスしかもらえない。全く異なる環境に身を置くことで、予想外の「引き出し」が増える。
デジタルをフル活用してインターンシップを体験できたことは素晴らしいと思いました。
環境を変えずに、時間さえ合えばオンラインで交流ができます。対面で言われるより、デジタルは案外すんなりとアドバイスを受け入れやすい場合もある、と発見もありました。これまでとは全く異なる環境に身を置く大切さも身に沁みました。
半径数メートルの同じ環境下では、自分が想定できる似た様な回答や反応しか返ってこないでしょう。あえて違う環境に身を置き、過去に接点のなかった業界や立場、地域の方々とコミュニケーションを取り、関係を築くことで、自身でも考えられなかった「引き出し」が一つひとつ増えたと思っています。